「”たまご”が”かまご”になってしまう」「”どうぞ”が”ごうぞ”になってしまう」。そんなお子さんの発音が気になっているご家族はいらっしゃいませんか?
今回は、私が実際に訪問支援したBちゃん(幼稚園児)の口蓋化構音のケースをご紹介します。約4か月の訓練で、どのように変化していったかをお伝えします。
最初の状態(初回評価)
初回の評価では、以下のような置換がみられました。
- タ行(た・て・と)→ か・け・こ に置き換わる
- ダ行(だ・で・ど)→ が・げ・ご に置き換わる
「たこ」が「かこ」、「どうぞ」が「ごうぞ」のように聞こえます。
評価の大きなポイントとして、言い直しを促すと正しく発音できること(被刺激性あり)がわかりました。正しい音を出す力自体はある。あとはそれを自然な会話の中で安定して使えるようにしていく段階でした。
口蓋化構音ってどんな障害?
口蓋化構音とは、本来は舌先や歯茎で作るはずの音(t・d など)が、舌の奥(軟口蓋)で作られてしまう構音障害です。
Bちゃんの場合、「た(t)」を発音しようとすると舌が奥に引っ張られてしまい、「か(k)」に聞こえる音になっていました。
聴力や口・舌の構造に問題はなく、発音の習得の過程でこのパターンが定着してしまった機能性構音障害のひとつです。適切なアプローチで改善が期待できます。
アプローチ:舌の”先っぽ”を意識させる
このケースで最初に取り組んだのが、舌の先(舌尖)の動きを意識させる練習です。
「た」や「だ」の音は、舌の先を上の前歯の裏側や歯茎にあてて作ります。ところが口蓋化構音のお子さんは、舌の奥(舌根部)を使う癖がついてしまっているため、まずは「舌の先ってどこ?」という感覚から育てていく必要があります。
具体的には、舌の先で上の前歯にそっと触れる練習から始めました。「ペロって前の歯に触ってみて」と伝えながら、舌先の存在を体で感じてもらうのです。
発音の前段階として、こうした口腔運動練習(口や舌の動きの練習)を丁寧に積み重ねることが、正しい構音動作の習得につながっていきます。Bちゃんも集中して取り組むと、舌先を使った正しい動きができるようになっていきました。
訓練の特徴:「お友達の力」を借りる
Bちゃんの訓練で大きな役割を果たしたのが、お友達の存在でした。
訓練中にお友達が同席すると、Bちゃんは俄然やる気を見せます。競い合うように取り組んだり、お互いに刺激し合ったりしながら、自然と苦手な音に向き合えるようになっていきました。「お友達がいると全然違うんです」とお母さんも驚いていました。子ども同士の関係性が、訓練の大きな原動力になることを改めて感じたケースです。
訓練の経過
訓練開始から2週間ほど:
タ行・ダ行の安定性は少しずつ向上してきました。指摘すると正しく発音できますが、自然な会話ではまだ置換が出る「浮動的」な状態。Bちゃん自身も訓練の意図をよく理解していて、「これ、練習になりそう。カとタが入ってるから」と自分で気づいてつぶやく場面もありました。
1か月ほど:
「ど」の音を宿題として導入し、単語レベルの練習から少しずつ難易度を上げていきました。
壁にぶつかった日々
うまくいかない日ももちろんあります。
ある日の訪問では、漫画を読んでいてなかなか終わろうとしないことがありました。また別の日には、あやとりに夢中になっていて、お友達が来るまでなかなか始められないことも。
こういった日は無理に取り組ませようとせず、本人のペースを大切にしながら進めました。「やる気がない日」に見えても、子どもなりの理由があることがほとんどです。
改善の兆し〜訓練終了へ
訓練も後半になると、置換の頻度が目に見えて減ってきました。宿題も単語レベルから短文レベルへステップアップ。
会話の中での聞き取りにくさはほぼ解消し、自分で気づいて言い直す力も育ってきていました。
そして最終回。Bちゃんは「いい言葉の練習思いついた」と言いながら、自分でタ行・ダ行の音が含まれる練習語を考えてきてくれたのです。「だ・で・ど」が苦手だと自分でわかっていて、自分でアプローチしようとしている——その成長に、思わず胸が熱くなりました。
ひとつの区切りを迎えたタイミングで訓練は終了。お母さんには「1つひとつの音は正しく出せていること」「自己修正もできていること」「成長とともに自然に整っていく可能性が高いこと」をお伝えし、家庭での取り組み方も一緒に確認しました。
このケースのポイント
- 口蓋化構音(t・dがk・gになるタイプ)は、適切な関わりで改善できる
- まず舌先の感覚を育てる口腔運動練習が土台になる
- 「言い直すとできる(被刺激性あり)」は、改善の大きなサインになる
- お友達など、子ども同士の関係性が訓練の動機づけになることがある
- やる気が出ない日は無理せず、子どものペースを優先する
- 自己修正能力が育ってきたら、あとは成長が味方してくれる
お子さんの発音が気になるときは、ぜひ一度言語聴覚士に相談してみてください。「様子を見ていたら治った」というケースもありますが、早めに状態を確認することで、Bちゃんのように短期間で大きく変化することもありますよ。

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